近年、地域研究をめぐる環境は大きく変化しており、それに伴って地域研究の現場で多くの課題が生じています。
地域研究をカリキュラムに含む大学や大学院が増え、教員の立場からは地域研究をどう教えるか、学生の立場からは地域研究をどう学ぶかが切実な課題となっています。このことは、地域研究の論文をどう書くか(学会誌を編集する立場からは、地域研究の論文をどう査読するか)という課題ともつながっています。
映像メディアや情報学などの技術の進歩を研究にどのように活用するかという課題もあります。また、災害や紛争の現場で人道支援の実務家と地域研究者がともに活動する機会が増えたこともあり、異業種・異分野の人々に地域研究の研究成果をどのように伝えればよいかという課題もあります。さらに、大学・大学院で研究方法を身につけ、論文を執筆して研究者として認められ、教育・研究機関に勤めて研究するという狭義の研究者とは異なる多様な経歴を持った人々が地域研究を行うようになり、量的な豊かさがどのようにして質的な豊かさに転換されるかという課題もあります。
このような多くの課題が一度に大量に押し寄せているため、地域研究の現場の一部には混乱や戸惑いが見られるようです。これに対して、「地域研究はディシプリンかアリーナか」という議論はいったん棚上げにして、地域研究として行われている方法をとり出し、次世代に継承可能な形で記述することがこの研究会の最終的な目的です。この目的の成果としては、最終的にはリーディングリストや教科書の形でまとめたいと考えています。
上記の最終的な目的に向かう上で、その出発点と方向性を確認するため、地域研究のさまざまな現場でどのような取り組みがなされており、実際に地域研究に関わっている人たちがどのような混乱や戸惑いを抱えているのか(あるいは抱えていないのか)、さらには地域研究と密接に関わりのある人びとが地域研究に対してどのような考えを抱いており、どのような関係を作りたいと考えているのかなどをサーベイするのがこの研究会の当面の目的です。
前項の研究目的を達成するため、この研究会には「研究班」と「統括班」が置かれています。
研究班は、地域研究方法論の個別の研究テーマに関する研究を行っています。研究班は統括班から独立して研究を行い、研究班の代表者を通じて統括班と連絡しています。地域研究方法論研究会では研究班として参加する研究グループを随時募集しています。
統括班は、地域研究に関わる国内の大学等をまわって研究会を行っています。各会場の1回目の研究会で参加者の関心を伺い、2回目の研究会ではできるだけその関心に沿うような報告者を立てるようにしています。
統括班では、大学等をまわる研究会のほかに、学会誌の編集担当者による「論文の査読」の研究会を行うことも計画しています。
統括班の構成は以下の通りです。
(1)統括班メンバー
山本博之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授、研究代表者)
久保慶一(早稲田大学政治経済学部・准教授)
小森宏美(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
西芳実(東京大学大学院総合文化研究科「人間の安全保障」プログラム・助教)
福武慎太郎(上智大学外国語学部・准教授)
柳澤雅之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
(2)研究班代表者
西尾寛治(防衛大学校人文社会科学群人間文化学科・教授、「研究者の広がり」班)
新井一寛(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・研究員、「手法としての映像」班)
地域研究方法論研究会は、2008年度から2010年度までの3年計画で研究を行います。
各研究班は、2008年度から参加しているものも2009年度以降に参加するものもありますが、いずれも研究班ごとに研究を行い、研究班ごとに研究成果を取りまとめることになります。
これと並行して、各研究班の研究代表者を加えて統括班が研究を進めます。2008年度には「大学院教育」の研究会を開始し、2009年度には「論文の査読」研究会も加える予定です。各研究班の研究代表者を通じて研究班と統括班の研究交流を行い、2010年度には地域研究コンソーシアムが編集する和文学術雑誌『地域研究』の特集記事として研究成果を発表します。また、地域研究のリーディングリストや教科書を執筆します。