「実践的活用」班
統括班からの期待
- 「実践的活用」班では、災害や紛争への対応を事例として、地域研究と異業種・異分野との協力・連携のあり方を検討します。
- 地域研究者であれ緊急人道支援や開発援助などに携わる実務家であれ、どちらも対象社会のよりよいあり方を念頭に置いている点は同じです。そのため実務家と地域研究者の連携や協力が必要だと言われ続けてきましたが、両者の協力や連携はあまり進んでいません。
- その大きな理由は、専門性が違いすぎるため、地域研究者が緊急支援の現場でどう役に立つか想像しにくいためです。地域研究者が担いうる役割として直ちに思いつくのは現地語通訳兼ガイドです。確かに地域研究者は対象地域の言葉や事情に通じており、情報収集などで役立つ面はあるでしょう。しかし、それは地域研究者の本来の専門性を活かした協力や連携とは言えません。また、地域研究者が実務家に同行することが地域研究者にとってどのような利点があるのかも明確ではありません。
- 地域研究者がその専門性を活かして異業種・異分野の人と協力・連携するのであれば、現場に行かずに協力・連携することも考えられます。
- このことを踏まえて、この研究班には、地域研究の実践的活用の例として、「災害対応の地域研究」というあり方を提示することが期待されます。多くの場合、災害の被災地は、国などの「全体社会」の一部の地域です。被災地を十分に理解するためには、被災地の被災者コミュニティだけ見るのではなく、「全体社会」の中に置いて被災地を捉える必要があります。そのためには「全体社会」の政治経済や歴史文化に対する知見を踏まえた地域理解が不可欠です。このように、「全体社会」のなかに被災地を置いて、災害を直接の研究対象としない研究者とともに被災地を理解することは、地域研究だからこそできることだろうと思います。
プロジェクト名:
アジアにおける大規模自然災害の政治経済的影響に関する基礎的研究
(京都大学東南アジア研究所公募共同研究、代表者:西芳実、期間:2008年10月~2010年3月)
研究目的:
自然災害への対応において、被災地の事情に通じた地域研究者が重要な役割を担うことが求められており、また、地域研究者のあいだでもその方法が模索されはじめている。この研究会では、そのような試みの1つとして、被災の現場で緊急・復興支援活動に直接携わるのとは異なる地域研究者による災害対応を考える。
この研究会は、人道支援、防災研究、地域研究を専門とする人々が集まり、それぞれの立場や関心に応じて、地域に対する理解を深め、また現場での支援活動をより意義のあるものにするためのアイディアを得ることを目的とする。災害は日常から切り離された一時的なできごとではない。災害は、社会が潜在的に抱える課題に作用して、通常は見えにくかったり語られなかったりする課題や構造を目に見えるかたちで人々の前に示す。被災や災害対応を見ることには、災害を直接の研究対象とする以外に、社会に対する理解を深めるという意義がある。また、被災者は被災前からさまざまな課題を抱えており、被災者にとっての災害対応を被災前から抱える課題への対応から切り離すことはできない。緊急・復興支援の対象となる被災者の考え方や行動を理解するには、被災前の社会の状況や、社会の被災以外の側面、さらに被災していない地域を含めた社会における被災地の位置づけについての理解が欠かせない。
この研究会は、災害を切り口に、地域研究者や実務家がそれぞれの知見を持ち寄ることを通じて、それぞれの専門性がより豊かに発展する場を提供することをめざしている。
メンバー:
西芳実(東京大学大学院総合文化研究科「人間の安全保障」プログラム・助教)(研究代表者)
岡本郁子(日本貿易振興機構アジア経済研究所地域研究センター・上級研究員)
木村周平(京都大学東南アジア研究所・助教)
田中修(財務省財務総合政策研究所・研究部長)
山本博之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
関連リンク:
公開研究会の記録: