「研究者の広がり」班
統括班からの期待
- 従来、「研究者」と言えば、大学や大学院で研究の方法を学び、論文を執筆することで研究者として一人前になったと認められ、教育・研究機関に勤務して職業として研究を行う人を指すのが一般的でした。しかし近年では、官公庁、民間企業、非政府組織(NGO)、地域社会・家庭などの社会のさまざまな分野で経験を積み、その知見を活かそうと研究の道を志す人が増えています。また、大学や大学院で研究の方法を身につけ、研究者のマインドを持ちながらも、狭い意味での研究職に留まらずに社会のさまざまな分野で活動する人も増えています。
- 実社会でさまざまな経験を積んだ人たちは貴重な存在ですが、いくら経験豊富だといっても、既存の学問分野の方法論を一から身につけるのには時間と手間がかかります。研究対象へのアプローチが多様で柔軟な地域研究は、このような経験豊富な人びとに「即戦力」として活躍してもらうのに適した学問分野です。
- ただし、いくら地域研究が多様で柔軟だと言っても、実社会で積み重ねられた豊かな経験や知見をそのまま発表するのではなく、他の人びとと共有できるような形に整えてもらう必要があります。この点では地域研究の多様さや柔軟さが裏目に出て、どのような形に整えればいいかは自分で考え出してもらわなければなりません。
- これに関しては、試験や論文執筆によって修了を認定する大学・大学院よりも、入退会が自由である学会や研究会が担う役割が大きいかもしれません。「研究者の広がり」班では、全てのメンバーが狭義の教育・研究機関以外で研究活動を行った経験を持ち、東南アジア海域世界の「福祉」の展開を事例とした共同研究を行いながら、身をもって「研究者の広がり」を積極的に取り入れた研究のあり方を検討します。
プロジェクト名:
公共領域としての地域研究の可能性――東南アジア海域世界における福祉の展開を事例として
(京都大学地域研究統合情報センター全国共同利用研究プロジェクト、代表者:西尾寛治、期間:2008年4月~2010年3月)
研究目的:
本研究プロジェクトの目的は、東南アジア海域世界における社会の多様化に対応した福祉(公共サービス)の展開に関する共同研究を進めつつ、この共同研究を進めることを通じて、同時に「多様な研究者」による共同の可能性を探ることにある。
本研究プロジェクトでは、既存の学問的ディシプリンを身につけて教育・研究機関に身を置く「機関研究者」と、家庭人、企業退職者、外交や援助の実務家などの「市民研究者」との協働により、多様化する研究者コミュニティの知識や経験を学術研究の成果として結実させる方法論を検討する。また、多様な背景を持つ参加者の知見や経験をもとに、研究プロジェクトの進め方や成果発表のあり方についても検討し、新しい世紀にふさわしい研究活動のあり方を積極的に模索する。
メンバー:
西尾寛治(防衛大学校人文社会科学群人間文化学科・教授)(研究代表者)
新井和広(慶應義塾大学商学部・専任講師)
井口由布(立命館アジア太平洋大学アジア太平洋学部・准教授)
川端隆史(外務省国際情報統括官組織第2国際情報官室・外務事務官)
桾沢英雄(上智大学外国語学部アジア文化研究室・非常勤講師)
篠崎香織(北九州市立大学外国語学部・准教授)
見市建(岩手県立大学総合政策学部・講師)
西芳実(東京大学大学院総合文化研究科・助教)
伴美喜子(高知工科大学国際交流センター・教授)
山本博之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
関連リンク:
公開研究会の記録: