1995年の阪神淡路大震災を契機に、災害対応の現場で、災害対応の担い手が必ずしも専門家に限定されず、ボランティアなどの新しい担い手の役割が重要性を増している状況が見られました。このことを反映して、被災者にとっての被害や復興の意味、被災社会の多様性、被災地以外の地域を含めた社会全体にとっての被災の意味にも関心が向けられるようになりました。さらに、2004年のスマトラ沖地震・津波(インド洋津波)を契機に、主に国外を研究対象とする地域研究者も被災地域の災害対応過程に関心を向けるようになり、学会でも災害対応に関するシンポジウムなどが多く開かれるようになりました。国外の災害対応の現場では、国内外のさまざまな文化的背景を持った支援者が復興事業に加わり、復興過程を通じて被災後の社会が再編されていく状況が見られました。この状況を見ることで、被災社会が被災前から潜在的に抱えていた課題に対応する形で復興後の社会を構想し、それに沿って復興を進めることが、直接の被災にとっても、また、被災地を含む国や地域全体にとっても必要であることがわかってきました。
従来、災害とは、平常時の社会が外部から突然加えられた力によって壊れることで一時的に生じる状況と理解されており、災害発生前の状態に戻さなければならない事態だと見られてきました。これに対し、「災害対応の地域研究」では、災害とは平常時から切り離された特異な時間・空間ではなく、社会の潜在的な課題が極端になってあらわれた状態であると捉えます。平常時には認識されていなかったり、慣習やタブーなどの理由で触れられなかったりする課題が目の前に現れ、災害という緊急事態のために手を付けることができるようになるということです。
このような災害の捉え方は、実務と研究の両面で災害に対する新しいアプローチを可能にします。復興事業では、壊れたものを元に戻すだけではなく、被災前からある課題を踏まえた支援事業を組み立てることが必要で、そのためには被災前の社会についての理解が欠かせません。そのためには文化や社会や歴史の専門家である人文社会系の研究者が重要な役割を果たします。また、研究面では、災害対応過程を知ることがその社会の平常時のあり方に対するより深い理解につながり、学術研究の発展としても意味があります。実務と研究を結びつけることによって、被災前の状態に戻すだけの復旧・復興ではなく、被災を契機によりよい社会の構築につながる創造的な復興が可能になるはずです。
このような関心のもと、この「災害対応の地域研究」では、以下の4つのテーマに沿って研究を進めています。