研究会の記録(「実践的活用」班主催)
- 共同ワークショップ 「防災・復興・災害研究への総合的アプローチ――2009年西ジャワ震災の事例から」
- 日時:2009年9月26日(土)午後3時~5時半
- 会場:東京大学地震研究所3階セミナー室
- 共催:京都大学東南アジア研究所公募共同研究「アジアにおける大規模自然災害の政治経済的影響に関する基礎的研究」、JST-JICA地球規模課題対応国際科学技術協力事業「インドネシアにおける地震火山の総合防災策」、京都大学地域研究統合情報センター共同利用研究「地域研究方法論」
内容
司会: 山本博之(京都大学地域研究統合情報センター)
報告1:佐竹健治(東京大学地震研究所)
「インドネシアにおける地震火山の総合防災策―科学技術協力を通じた国際協力」
報告2:加藤照之(東京大学地震研究所)
「2009年ジャワ島南方沖の地震―地震の仕組みと特徴」
報告3:西芳実(東京大学大学院総合文化研究科「人間の安全保障」プログラム)
「2009年西ジャワ震災に見る災害対応と防災意識」
報告4:水野広祐(京都大学東南アジア研究所)
「経済の被災から被災の経済へ―西ジャワの文化・社会・経済」
討論
趣旨
このワークショップでは、2009年9月2日に発生したインドネシア・ジャワ島南方沖の地震(西ジャワ震災)の事例をもとに、双方に意味のある形で工学・防災研究と地域研究を結び付け、さらにその成果を科学技術協力に結び付ける方法を検討する。
開発途上国への技術支援は、先端技術を用いた施設・設備の開発途上国への供与と、その施設・設備を有効に利用できるような開発途上国の専門家の育成の組み合わせによって行われるのが一般的である。供与した施設・設備が十分に利用されない場合には、現地社会の技術レベルや意識の低さに原因があると考えられ、この理解に基づいてさらなる技術協力が行われてきた。
ここでは、国際的(普遍的)である近代科学技術と在地(固有)の技術が対比的に捉えられている。しかし、近年ではこの二項対立で捉えられない状況が生じている。2004年スマトラ沖地震津波の際にインドネシア・アチェ州で「トルコ村」「中国村」と呼ばれる大規模な復興住宅地が作られたことにも見られるように、かつて経済援助や技術協力の受け手だった国々が国際的な人道支援や技術協力に参入し始めている。このため、支援や協力の現場では、欧米や日本などの先進諸国のあり方が唯一の国際的なあり方ではなくなる状況が生じている。
このような状況で、例えば防災分野で日本がこれまで蓄積してきた知見や経験を活かして国際的な技術協力を行おうとしたとき、相手側に最先端の科学技術を提供するだけでは不十分であり、現地社会の文脈に合わせて「改造」を施した上で提供する必要がある。その際には、現地社会における慣行を何でもそのまま受け入れるのではなく、現地社会の将来の方向性を見据えた上で介入のあり方を決める必要がある。
他方、地域研究者は、研究対象である地域社会に積極的に働きかけて変化をもたらすことに対してこれまで必ずしも積極的ではなかった。しかし、自然災害はその社会が従来から抱えていた課題を目に見えやすい形で示す機会となり、しかもその社会の住民が復興・再建を通じてよりよい社会の実現を目指していることから、積極的に介入することで対象社会をよりよい方向に変革させる好機であるとも言える。
また、地域研究者は対象地域社会の固有性に目を向けがちであり、個々の事例を見たときに対象地域社会の固有性から説明しがちである。これに対し、災害対応においては、その地域社会の固有性の表われだと思っていたものごとが他の地域社会でも広く見られることであるとの指摘を工学・防災研究や人道支援の専門家から受け、それが対象地域社会の固有性を捉えなおす機会になることがしばしばある。このことは災害対応に限られたことではないが、災害対応ではモノが壊れて直すというサイクルを扱うことと、災害対応は社会のほぼすべての構成員がいっせいに関わる出来事であることから、他地域との比較が行いやすくなると考えられる。
このワークショップでは、災害地域情報を橋渡し役にすることで、地震研究者と東南アジア研究者を結びつけることを試みる。その上で、両者の連携から得られた知見を科学技術協力に結び付ける方法についても議論したい。
報告要旨