いま語りたい映画(2018年7月)
混成アジア映画研究会のメンバーが「いま語りたい映画」を紹介します。
積極的に紹介したい作品だけでなく、問題含みなので紹介したいという作品も含みます。国別に並べていますが、語りたい国で分けているため、制作国で分けているとは限りません。
今回は、新作・旧作・未公開作を問わず、「いま観たい/語りたい映画」を選んでみました。過去の「いま語りたい映画」重なっている作品があります。
2017年9月の「いま語りたい映画」
2017年6月の「いま語りたい映画」
2017年1月の「いま語りたい映画」
2016年9月の「いま語りたい映画」
※2018年8月に一部作品を追加しました。
※本リスト公開後に日本で公開が決まった作品については、見出しを公開時の邦題に書き換えています。ただし「⑦日本での公開」は本リスト公開時の情報のままにしています。
凡例:邦題(仮題あり)、①原題(和訳)、②英題、③監督名、④制作年、⑤制作国、⑥使用言語、⑦日本での公開
フィリピン
なあばす・とらんすれいしょん
内向的な8歳の少女イェルの父はドバイに出稼ぎ中。時々送ってくれるカセットの録音メッセージを母の留守に聞くのが毎日の習慣だ。この不安な気持ちをうまく翻訳できるペンがあったらいいのに…。日本で幼年期を過ごした女性監督の長篇二作目。(及川)
①Nervous Translation(不安の翻訳)、③シリーン・セノ(Shireen SENO)、④2018年、⑤フィリピン、⑥タガログ語、⑦未公開
母との距離
夫と娘たちを残して家を出た妻(母)が5年ぶりに家に戻る。過剰に歓迎する夫やよそよそしい娘たちとの関係を修復しようとする過程で家を出た理由が明らかにされていく。不在の家族や同性どうしの恋愛など多くの要素が織り込まれ、劇場公開初日には満席の観客が固唾を飲んで物語の展開を見守った。(山本)
①②Distance(距離)、③Perci Intalan、④2018年、⑤フィリピン、⑥タガログ語、英語、⑦未公開
送金屋さん
外国送金事務所に勤める朴訥な青年が、同僚や常連客の助けを借りて、毎月16日に送金の受け取りに来る女性客の苦境を助けてデートにこぎつけようとする。コメディ風で物語に極端に大きな起伏はないが、父親になることの意味を正面から問うている点でフィリピン映画としては少数派の作品。(山本)
①Kuya Wes(ウェスさん)、③James Robin Mayo、④2018年、⑤フィリピン、⑥タガログ語、英語、⑦未公開
リワイ
マルコス体制末期、山中での反政府闘争を率いて、伝承上の勇者リワイの名で呼ばれた指導者は、夫とともに入れられた政治犯収容所で息子を産んで育てるが、迫り来る自分たちの運命を予感して息子を手放すことを決意する。物語の最後にタイトルの「リワイ」に込められた意味が明らかになる。(山本)
①②Liway、③Kip Oebanda、④2018年、⑤フィリピン、⑥タガログ語、英語、⑦未公開
パンツと塩パン
年齢を重ねて身体がそれぞれ言うことを聞かなくなってきた人たちが暮らすコミュニティに、ビサヤ語を話す7歳の少女が突然現れ、奇跡によって人々の病を治し、人々をハッピーにしていく。現代版『奇跡の女』。(山本)
①Pan de Salwal、②The Sweet Taste of Salted Bread and Undies、③Che Espiritu、④2018年、⑤フィリピン、⑥タガログ語、ビサヤ語、英語、⑦未公開
ミャンマー
14個のりんご
不眠症を治すため、占いに従って14個のりんごを携え2週間の出家生活を送る男。ミャンマーの村の寺院の日常を捉えたドキュメンタリーだが、あけすけな僧侶たちの会話に驚かされる。中国への出稼ぎをめぐる若い女性との対話も興味深い。(及川)
①十四顆蘋果、②14 Apples、③Midi Z(趙德胤)、④2018年、⑤台湾、ミャンマー、⑥ビルマ語、⑦未公開
タイ
ブラザー・オブ・ザ・イヤー
映画「フリーランス」等で日本でもお馴染みの演技派俳優サニーと数々のテレビドラマ(3ch)のヒットで今を時めく人気女優ヤーヤーが兄妹役で共演。韓流アイドルグループ2PMのニッチャクン(韓国ではニックン)がヒロインの恋人役で登場し、兄の嫉妬を買う。兄妹の関係がギクシャクし始めドタバタが巻き起こるが、最後はお涙頂戴のロマンティック・コメディ。ヤーヤーは日本留学帰りで、ニッチャクンは母が日本人・父がタイ人という設定。2人の話す日本語もみどころ(ききどころ)。さてどちらの日本語がうまいか。現地在住の日本人も多く出演している。2018年前半の話題作。(平松)
①น้องพี่ที่รัก(妹、兄、そして恋人)、②Brother Of The Year、③ウィッタヤー・トーンユーヨン、④2018年、⑤タイ、⑥タイ語、⑦未公開
ベトナム
目を閉じれば夏が見える
本編の9割が北海道上川郡東川町で撮影された、越日共同制作映画。カメラマンの父親を捜しにベトナム女性ハーは東川を訪ねる。そこで記憶障害のカメラマン、アキラと出会う。(坂川)
①Nhắm Mắt Thấy Mùa Hè、②Summer in closed eyes、③カオ・トゥイ・ニー(Cao Thúy Nhi)、④2018年、⑤ベトナム、日本、⑥ベトナム語、日本語、⑦東川町でのワールドプレミア(世界最初の試写会、2018年)
マイ・ミスター・ワイフ
『ホイにオマカセ』主演&監督コンビによる、新作コメディ映画。仕事中毒の女性マイはやっと見付けたメイドが優秀で大満足。しかし、実際、仕事をしていたのはメイドの兄フンだった。マイ役は『目を閉じれば夏が見える』でも主演の新人女優フン・アン・ダオ。 (坂川)
①Chàng Vợ Của Em、②My Mr.Wife、③チャーリー・グエン(Charlie Nguyễn)、④2018年、⑤ベトナム、⑥ベトナム語、⑦未公開
ハイフォン
『仕立て屋 サイゴンを生きる』プロデューサーで女優ゴー・タイン・ バン(ベロニカ・グゥ)主演の新作アクションスリラー。ギャングを引退し母親となったヴァンは娘を誘拐される。監督は『やさしいあなた』のレ・ヴァン・キエト。(坂川)
①Hai Phượng、②Furie、③レ・ヴァン・キエト(Lê Văn Kiệt)、④2018年、⑤ベトナム、⑥ベトナム語、⑦未公開
ソン・ランの響き
女優ゴー・タイン・ バン(ベロニカ・グゥ)製作による、ベトナム南部の大衆歌舞劇カイルオンに関する映画。主演は元365dabandのIsaac。タイトルはカイルオンの演奏にも使用される楽器名から。(坂川)
①Song Lang(ソン・ラン)、③レオン・クアン・レー(Leon Quang Lê)、④2018年、⑤ベトナム、⑥ベトナム語、⑦未公開
パパとムスメの7日間
五十嵐貴久の小説『パパとムスメの7日間』(幻冬舎文庫)のベトナムでの映画化。監督は『サイゴン・ボディガード』の落合賢。7日間だけ体が入れ替わってしまう父と娘を描くコメディ。(坂川)
①Hồn Papa, Da Con Gái、③落合賢、④2018年、⑤ベトナム、⑥ベトナム語、⑦未公開
におい
23分の短篇。妊娠した少女が船を漕いで水路を進み、フローティングハウスの老女に出産までの面倒を見てもらうことになる。そこで同じく妊娠した少女と出会い、2人の間には次第に曖昧な友情が育まれてゆく。節度ある距離感の映像が深い余韻を残す。(及川)
②Scent、③リ・バオ(Le Bao)、④2014年、⑤ベトナム、⑥ベトナム語、⑦未公開
インドネシア
バスは夜を走る
内戦の地を行く夜行バスの一夜を描く。密使が乗り込んだことからバスは反乱軍と政府軍の双方から狙われる。乗客は無事目的地に辿り着けるのか、そして内戦の真相は?緊迫の展開に加え、アチェ内戦下の実話をもとに、内戦の不条理とそれがもたらす犠牲を正面から問う異色の作品として高く評価され、2017年インドネシア映画祭最優秀作品賞を受賞。(西)
作品紹介(「夜行バス」)
①②Night Bus(夜行バス)、③エミル・ヘラディ(Emil Heradi)、④2017年、⑤インドネシア、⑥インドネシア語、デリ・マレー語、バタック語、⑦未公開
カルティニ
「女子教育の先駆者」「民族覚醒の母」として国家英雄に列せられるカルティニの結婚までを描く。オランダ植民地下のジャワで貴族の姫君として育てられたカルティニは、読む女・書く女・行動する女として周囲に旋風を巻き起こす。溌溂としたカルティニの魅力もさることながら、カルティニを見守る生母の葛藤と覚悟が胸に迫る。(西)
①②Kartini、③ハヌン・ブラマンチョ(Hanung Bramantyo)、④2017年、⑤インドネシア、⑥インドネシア語、ジャワ語、オランダ語、⑦未公開
海を駆ける
インド洋津波の被災地アチェを舞台にした「災後7年目」の物語。多様な読みを可能にする作りで、この作品を観て喜んだ人も腹を立てた人も、気になる理由を考えることで自分の無意識の思い入れに向き合うことになるという不思議な作品。(山本)
①海を駆ける、②The Man from the Sea、③深田晃司、④2018年、⑤インドネシア、日本、フランス、⑥インドネシア語、日本語、⑦2018年5月全国ロードショー
シンガポール
妹
20分の短篇。高層階の柵の外に座り込む女性に、警察官をはじめ人々が説得を試みる様子が固定カメラで映される。彼らの語りかけを通じて次第に女性が何者かが明らかになるが、あえて字幕を用いないことで不可知の領域を残している。(及川)
①Nyi Ma Lay、③チャン・ウェイリャン(曾威量/Chiang Wei Liang)、④2017年、⑤シンガポール、台湾、⑥英語、ビルマ語、⑦未公開
カンボジア
音楽とともに生きて
アメリカ育ちのカンボジア出身の若い女性が、母の故郷を訪れ、平和な1960年代、その後のポル・ポト時代、と両親の生きた過去をたどる。現在活躍している実際のミュージシャンが当時のミュージシャンとして多数出演している。カンボジアの国民的歌手の名曲に聞き入った後の蠅の羽音が効果的。(岡田)
①តន្ត្រីជីវិត(人生の音楽)、②In The Life of Music、③ケイリー・ソー、ソック・ヴィサル、④2018年、⑤カンボジア、⑥カンボジア語、⑦未公開
マレーシア
十字路
ヤスミン作品『グブラ』でモスク管理人を演じ、警察と政治家の腐敗を批判する短編や舞台を作ってきたナムロンによる長編。不法滞在となったインドネシア人女性が帰国しようとするが、犯罪組織と裏でつながった警察の網に捕まってしまう。マレーシアでの公開時には「ロヒンギャ」「犬(=警察)」のセリフがカットされてピー音ばかりになった。(山本)
①One Two Jaga、②Crossroads: One Two Jaga、③ナムロン(Nam Ron)、④2018年、⑤マレーシア、⑥マレー語、インドネシア語、フィリピン語、英語、広東語、⑦未公開(Netflix「それぞれの正義」)
帰還
貧しい漁夫が村の美しい娘と結婚し、家族を幸せにするため妻と息子を残して貨物船に乗るが、不運が重なり家に帰れずに何十年も時が過ぎていく。海辺の家に留まって夫の帰りを待ち続ける妻の死期が近づき、61年ぶりに家族の物語が動き始める。原作は実話。裏側には男どうしの友情物語も。(山本)
①Pulang、③カビール・バティア(Kabir Bhatia)、④2018年、⑤マレーシア、⑥マレー語、英語、華語、広東語、日本語、⑦未公開(Netflix「61年目の約束」)
ドゥクン
2006年に制作されたデイン・サイードの長編第1作。1993年のドゥクン(呪術師)による議員殺人事件をもとにデイン・サイード流のホラーとファンタジーを交えた作品。制作直後に上映中止になり幻の作品となっていたが、2018年4月に12年の時を経て劇場公開された。(山本)
①Dukun、③デイン・サイード、④2006年、⑤マレーシア、⑥マレー語、福建語、⑦未公開
(このページは不定期に情報を更新します。)