わすれな月2022 ヤスミン・アフマド監督追悼上映・ディスカッション

アディバ・ノールの「ヤム三部作」

『細い目』『グブラ』『ムクシン』のオーキッド三部作では、ヤムがいつもオーキッドのそばにいて、ときには両親よりも近いところでオーキッドの成長を見守り支えてきました。3作品を通じてヤム役を演じ、『タレンタイム』ではアディバ先生役を演じたアディバ・ノールが亡くなったという突然の報せをまだうまく受け止めきれずにいます。
わすれな月2022では、『細い目』『グブラ』『ムクシン』を「ヤム三部作」と呼んで、この3つの作品の鑑賞とディスカッションを通じて、アディバ・ノールを偲び、ヤスミン作品とマレーシアについて考えたいと思います。


『グブラ』(C)Nusanbakti Corporation

ジット・ムラドの天使姿

『タレンタイム』が日本でテレビ放映された2022年6月、マレーシアで映画『Spilt Gravy』(ザヒム・アルバクリ監督)が劇場公開されました。『タレンタイム』で車椅子に乗った謎の男を演じたジット・ムラドの脚本による舞台演劇を映画化したもので、ジットも天使役で出演しています。
『タレンタイム』とほぼ同じ頃に撮影して編集まで済んでいましたが、ジットが天使役を演じていたことなどからマレーシア国内で上映許可が下りず、制作者と検閲局の交渉の末、11年の時を経ての新作公開となりました。

『Spilt Gravy』にヤスミン監督は直接関わっていませんが、ヤスミン作品と関わりが深い作品になっています。ヤスミン作品で父親(と謎の男)を演じた俳優たち(『細い目』などのハリス・イスカンダル、『グブラ』のナムロン、『ムアラフ』のラヒム・ラザリ、『タレンタイム』のジット)が勢揃いして、ヤスミン作品の「母の物語」に対して「父の物語」が語られます。ヤスミン作品は皮肉も効いていますがそれ以上に愛にあふれているのに対し、『Spilt Gravy』はジットのブラックユーモアが強めに効いています。ヤスミン世界に通じるところがあるけれど違う世界、ヤスミン作品の裏側の世界を見ているような気持になります。
ジットはヤスミン亡き後のマレーシア映画の担い手の1人として期待されていました。『Spilt Gravy』がようやく劇場公開された4か月前にジットが亡くなったことがとても残念です。


『Spilt Gravy』で天使を演じたハリス・イスカンダル(左)とジット・ムラド (C)ZSA Productions

わすれな月2022

わすれな月2022は、オンラインでの解説動画公開と会場での作品鑑賞・ディスカッションの組み合わせで行います。
オンラインの解説動画公開は、山本博之(『マレーシア映画の母 ヤスミン・アフマドの世界』編著者)による「ヤム三部作」『タレンタイム』『Spilt Gravy』についての解説動画を、2022年7月23日から1週間、このページで公開します。(Vimeoを使うため、接続する国・地域によっては視聴できない場合があります。)
会場での作品鑑賞・ディスカッションは、事前登録により参加人数を制限して行います。作品鑑賞は「ヤム三部作」、ディスカッションは「ヤム三部作」と『タレンタイム』が対象です。『タレンタイム』は会場での上映はありませんので、事前に視聴した上でご参加ください。

※参加費無料/要事前登録(定員25名)
※上映作品はいずれもDVD画質による上映です。

解説動画
 「わすれな月2022」(72分)
 公開期間:2022年7月23日~30日

日時
 2022年7月24日(日)10:00~18:30
会場
 京都大学稲盛財団記念館(京都市左京区吉田本町)

プログラム
 10:00 開会挨拶
 10:15 『細い目』 上映・作品解説
 12:20 休憩
 13:00 『グブラ』 上映・作品解説
 15:30 『ムクシン』 上映・作品解説
 17:30 ヤスミン作品とマレーシア映画を語る(山本博之)
 18:30 閉会

参加申し込み
会場での上映・ディスカッションへの参加を希望する方は参加申し込みより申し込んでください。2022年6月30日の午後5時頃にメールで入場整理券をお送りします。
申し込みが多数の場合、6月30日の正午までに申し込みいただいた方の中から抽選を行います。抽選に漏れた方には6月30日にメールでお知らせします。
6月30日以降は定員に達するまで先着順に参加申し込みを受け付けます。

作品紹介
細い目(Sepet)
ヤスミン・アフマド監督/マレーシア/2004年/107分/日本語字幕(多色字幕)
中等教育修了試験を終えて大学進学の結果発表を待っているマレー人少女のオーキッド。成績優秀でも進学できず、露店で海賊版CDを売る華人少年のジェイソン。民族と宗教が異なる2人が市場で出会い、恋に落ちる。男と女、雇い主と雇われた人などのさまざまな力関係を逆転させて「もう1つのマレーシア」を美しく描く。
(『細い目』は言語別に色が違う多色字幕で上映します。通常の劇場公開版よりもスクリーン上の文字が多いことをご承知おきください。)

グブラ(Gubra)
ヤスミン・アフマド監督/マレーシア/2006年/113分/日本語字幕
『細い目』の7年後。広告代理店に勤めるマレー人アリフと結婚生活を送るオーキッド。父アタンの入院をきっかけにジェイソンの兄アランと出会う。同じ町の別の一角では、家族のために身体を売って金を稼ぐ女たちを高利貸に追われる男が襲う。約束を守った男だけが「父親」になれる。見どころはアランに導かれたオーキッドの「結婚」。

ムクシン(Mukhsin)
ヤスミン・アフマド監督/マレーシア/2006年/95分/日本語字幕
『細い目』の7年前。オーキッドは「女の子らしく」が嫌いな小学生。学校の休暇中に田舎にやって来た12歳のムクシンと出会い、友情と恋のはざまで揺れ動く。英国帰りで「マレー人らしく」にとらわれない母イノムと父アタン。家庭の外ではコミュニティの決めごとにあわせる工夫が必要で、それができなければコミュニティにいられなくなる。

タレンタイム(Talentime)
ヤスミン・アフマド監督/マレーシア/2009年/120分
高校生が音楽や演劇の才能を競いあうタレンタイム。決勝に残ったメルー、カーホウ、ハフィズ、そしてメルーの送迎担当のマヘシュは、それぞれ恋人や家族との関係で1人で抱えきれないほどの大きな困難を抱えたままタレンタイムの決勝当日を迎える。人はみな輝きを秘めているが、輝くかどうかを決めるのは自分ではない。
(『タレンタイム』の上映はありません。市販のDVDまたは動画配信サービスでご視聴ください。)

主催
 混成アジア映画研究会
協力
 京都大学東南アジア地域研究研究所
 科研費プロジェクト「東南アジア映画の物語と表現を読み解く」
問合せ
 malaysianfilm@cseas.kyoto-u.ac.jp